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通貨安戦争という批判の妥当性

 2013-05-09
HRPニュースファイル631では、アベノミクスに対して寄せられている批判の一つ、「通貨安戦争」に対して論じました。確かに、一方的な通貨の切り下げは相手国の通貨を切り上げることになりますし、自国通貨が相対的に安くなるので輸出に有利になります。その結果、海外の需要を奪うことは可能になります。そのため、国際経済学では近隣窮乏化政策と呼ばれています。

ただし、今回の安倍政権と日銀が実施しているのは為替介入ではなく金融緩和だということに焦点を当てる必要があります。よって、固定相場制での通貨の人為的な切り下げや為替介入とは意味が異なるというのが論点です。

主にリフレ派と呼ばれる経済学者が使っている「国際学派」の代表格であるB/アイケングリーン教授の論点を使いましたが、日本ではまだまだ知られていないのが現実です。

とまれ、下記に論点が皆様にとって何かの参考になれば幸いです。



HRPニュースファイル631 

日経平均株価が1万4000円台まだ回復しました。為替レートは100円近くまで下落しており、日銀の「異次元緩和」の影響は出ています(2013年5月8日現在)。

□金融緩和と為替介入は異なる

さて、ここに来て日銀の金融緩和に対して中国や韓国、中南米をはじめとした海外の要人やメディアから「通貨安戦争」という言葉が飛び交っています。

為替の切り下げる(円安のこと)ことで輸出を促進していく為替政策を指すのが一般的ですが、大きく分けて二つの方法があります。一つは現在のように金融緩和を通じて通貨量が増える。つまり通貨の価値を下げる円安路線がこれにあたります。

もう一つは為替介入です。

いわゆる通貨当局が「円売りドル買い」をすれば同じ効果が得られます。さらに、為替介入には日本独自で行う単独介入と各国との協調介入の二つに分けられます。もし、日本がG8などの先進国との協議を経ないで外債購入や円売りドル買いを行うとすれば、これは単独介入となります。

そして、もう一つが協調介入ですが、有名なのは、1985年のプラザ合意によるドル高是正です。

当時のアメリカは「強いドル」を標榜するレーガン政権でした。そのため、アメリカの長期金利は高めの水準にありました。その結果、アメリカの経常収支赤字が増大したため、ドル高是正という国際的な議論が出ていたのがプラザ合意の主要課題でした。

それでは、単独介入と協調介入は何が違うのでしょうか。

行動原理は、意図的に通貨価値を操作するので同じです。

ただし、国際金融筋では協調介入が原則であって単独介入はしばし批判にさらされます(HRPニュースファイル78を参照)。

シティーグループ証券株式会社の藤田勉取締副会長によれば、為替介入は外交問題であると説明しています(藤田 勉 『金融緩和はなぜ過大評価されるのか』参照)。

この説明は実に正確です。つまり、自国の通貨を動かすということは、当然相手国通貨を動かすことになります。従って、自国の経済状況だけで単独介入をすることは、相手国の理解なしに行うものであり、外交問題になるか相手国から批判されて当然なのです。

□為替介入の効果は短期で限定的

協調介入が理解を得やすいのは、突発的なショックによって為替が大幅に変動したときです。

例えば、2011年3月11日の東日本大震災によって円相場が急騰した際にも先進国間で協調介入が行われました。また、先ほどの例では、「強いドル」政策によってアメリカの経常収支が悪化したことで、ドル高是正が国際世論となりました。こうした国際間での政治的合意があれば協調介入が行われることはあります。

ただし、単独介入にせよ協調介入にせよ、為替市場に与える効果は短期的であり効果は限定的だというのが現実です。根本的には、為替は勝手に動かせるものではなく、時々刻々と変動する為替市場で決まります。よって、国際金融の専門家の間では為替介入は評価されていないのです。

□通貨政策に関する「国際学派」の新しい見解

上記の議論から分かる通り、今回の大胆な金融緩和は通貨戦争とは別物です。

安倍政権は意図的な単独介入をせずに日銀による金融緩和を通じて通貨供給量を拡大したにしか過ぎません。よって、海外の要人やメディアが日本の通貨当局が「通貨戦争を煽っている」という主張は間違っているのです。

確かに、かつては通貨の切り下げは「近隣窮乏化政策」と呼ばれ、一方的な切り下げは海外の需要を奪う悪政だと批判されていました。国際経済学の教科書を開けば、1930年代の大恐慌の一員として通貨切り下げによる通貨安競争がブロック経済化と貿易縮小の原因だとする記述はいまだに見られます。

しかしながら、カリフォルニア大学バークレー校のB・アイケングリーン教授の最新の研究によれば、金融緩和による為替変動と為替介入は区別するべきだと論じています。

前者は、今の日本の政策そのものです。日本や米国、欧米諸国が一斉に金融緩和をすれば、為替レートは相対的に変化せず、金融緩和による株式市場や資産市場の活性化が行き渡るので「近隣富裕化政策」だとしています。後者は、古典的な「近隣窮乏化政策」であるのは言うまでもありません(*2013年2月16日の日経新聞に掲載されたアイケングリーン教授のインタビュー記事も参照のこと)。

同教授の見解は、日本では早稲田大学の若田部昌澄教授が紹介して有名になりましたが、まだまだ人口に膾炙しているとは言えません。それでも、通貨安競争=悪と一概に退ける固定観念を打破し、新しい学問的成果が出ていることには注目するべきでしょう。

以上、マスコミ報道で誤解しやすい為替切り下げ政策に関する新しい研究成果とアベノミクスの円下落は通貨戦争ではないことを論じました。政策担当者は、こうした一般受けしやすい言葉に流されることなく学術的にもきちんと反論をしていくべきです。(文責:静岡県参議院選挙区代表 中野雄太)

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