本物の量的緩和を閉ざした日銀

 2010-09-01
私が好きな経済学者の一人、高橋洋一氏が近著を矢継ぎ早に出しています。
論点は各書ともそれほど変わりませんが、相変わらず論理的に切れ味が鋭く、読みやすい本となっている点に気に入りました。本来ならば、天才数学者として、複雑な数理マクロモデルを使った専門書が書ける人なのに、氏はひたすら啓蒙書を意図的に書いているように見えます。対象は、明らかに政治家や官僚です。
 
8月末に発刊となった『絶対によくなる!日本経済』は、コンパクトで非常に読みやすいものとなっています。
消費税増税論を主導する財務省の思惑や日銀の金融政策に対する痛烈な批判は、いつもながらうなずく点が多く、納得できます。
 
さて、この中では、今話題の日銀の金融緩和について触れているところを紹介しておきたいと思います。
短期金融市場を中心に、新型オペを実施している日銀が、とうとう30兆円規模まで踏み込んだ金融緩和を打ち出しました。個人的には、一過性に終わる可能性が高いので、明確な実績が出るまで継続するべきで、長期国債の買い切りオペまで含めた金融政策を期待します。高橋氏の主張もそれに近く、以下に参考論点を一点だけ明記しておきます(上記著書93ページから94ページ)。
 
いま必要なのは量的緩和だが、残念なことに、〇九年十二月に日銀は、この新型オペを「広い意味での量的緩和」と呼んだことで、本物の量的緩和への道を閉ざしてしまった。日本の場合、〇六年三月まで量的緩和を行っていたころは、実質金利は一%にもなっていない。そのため、設備投資が伸びるなどの景気回復局面であった。量的緩和をやめてから実質金利は一%を超え、さらに、リーマン・ショックで大きく跳ね上がった。その後は下がったが、今でも二%をちょっと下回る水準で、実体経済の水準からいえばかなり高い。これでは設備投資などは出てこず、日本経済が元気になるわけがない。 アメリカの場合、二%前後だった実質金利がリーマン・ショックで高くなり、量的緩和(質的緩和ともいう)によって急速に下がり、いまでは一.三%と日本より低い。これでは、日本経済がひとり負けをするのもやむをえまい。
 
実質金利とは、名目金利から期待インフレ率を引いたものです(これをフィッシャー方程式とも言う)。
期待インフレ率がマイナスであれば、実質金利は高くなります。不況期は、どうしても実質金利が高くなってしまいます。現在では、名目金利がゼロに近いので、期待インフレ率を高めて、実質金利を下げる方法が検討されています。
 
たとえば、プリンストン大学教授で、08年ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンは4%のインフレ目標を提示しています。4%という数字は、国際的にも決して高くないインフレ率といわれています(もちろん、この根拠に異論をたくさんある)。高橋洋一氏もインフレ目標値を導入することは検討に値すると提言しています。
 
とにかく、高橋氏やクルーグマンが主張しているのは、日銀がお金を刷ってインフレ期待を持たせることをしない限り、実質金利が高いままで、いつまでたってもデフレを脱却できないということです。実際、これは理論上正しいと言えます。日本では、日銀がインフレ目標に対して否定的ですし、経済学者の間でも評判がよくありません。特に、こうしたインフレ目標に対して執拗な批判を繰り返しているのは池田信夫氏です。氏の言い分にも一理あるのですが、少し感情論に走りがちに見ます。
 
とまれ、金融論の専門家からは、日銀の量的緩和は生ぬるいということです。高橋氏は、政府紙幣の発行を主張しています。幸福の科学グループの大川隆法総裁は、民間銀行の銀行紙幣を30兆円発行することを提言しているなど、近年の金融政策は、前例のない境地に入ってきているので、「非伝統的金融政策」の必要性が叫ばれています。通常はほとんど使用しない政策で、限定的な効果しかないのは事実ですが、デフレを止める方法論としては成功している実績があるので、日本経済でも試す価値はあると思います。思いつきで、やる前から「効果がない」と断定する経済学者は、一体何を根拠にしているのでしょうか。
 
高橋氏が指摘する本物の量的緩和を遂行する勇気を政治家と日銀には期待したいのですが、現状は厳しいものがあります。現在はこれとは逆に歯車が回っているいます。日本経済に必要な政策を訴えている論者の一人であり、実際小泉政権の無礼だった高橋氏の見解は、もう少し評価されてもよいと思うのは私だけでしょうか。
 

本日の静岡駅北口での街宣では、上記の金融政策を中心に話しました。
 
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